家のつくりやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑きころ、わろき住まひは堪へがたきことなり。深き水は涼しげなし。浅くて流れたる、はるかに涼し。細かなる物を見るに、遣戸は蔀の間よりも明かし。天井の高きは、冬寒く、灯暗し。造作は、用なき所をつくりたる、見るも面白く、よろづの用にも立ちてよしとぞ、人の定め合ひ侍り
徒然草 吉田兼好
徒然草 吉田兼好
日本は古来から、夏の高温多湿な気候が、豊かな植生をもたらしていた。日本列島は、急峻な山岳地帯が複雑に入り組み、川は狭く急流が多い。火山活動や地震で急な斜面の地形が出来上がり、多量の降水によって、山が崩れ、今の日本の景観を作り出している。 それゆえ地震や火山活動だけでなく、古代から水害は日本の各地で頻発していた。治山治水は政治上の重要課題で、統治者は川を治め、植林し保水により洪水を防ぐべく多大の労力を注いだ。
12世紀に入ると、樹木の年輪の解析から推定されるように、急激な寒冷化と温暖化が繰り返して起きた。鴨長明が暮らした、平安朝の末期には災害が頻発し、飢饉も繰り返し起こった。1212年(建暦2年)貴族社会が崩壊し、災害も頻発したこの時代の大火、地震、大嵐など多くの災害の事実を鴨長明は記録し、随筆に書き残した。14世紀はやはり、出家遁世した吉田兼好も日本の夏の暑さを記録している。
江戸時代の初期から中期にかけて、森林の伐採や、新田の開発が進み、森林は荒廃した。岡山県では承応3年の備前大洪水に見舞われ、多くの死者を出した。その時の藩の執政をになったのが熊沢蕃山で、 蕃山は、山川は天下の源なり。山は川の本なりとして、100年の仁政によって、もとの山川に戻ると説いた。保水力の強い杉やヒノキを植林し、森林を再生し、雨水を涵養するように植林を実行した。そして寺社などの建築を制限して、森林の伐採をやめ、新田の開発も制限した。こうして山の保水力を回復し、河を改修して水害を防いだ。
その頃、幕府も新田の乱開発を中止する「山川掟」を出した。そもそも幕府の中心、江戸の町は利根川の流れを変えた、治水工事の賜物であり、濃尾平野も江戸時代に薩摩藩が多大の犠牲者を出して、堤防をつくった。この輪中には敷地を高くして、倉や土蔵を作り、2階には水害時の船を据え付けるところもあった。日本全国の河川は、堤防を整備し洪水を防ぐことが地域の生存に必須の課題であった。水害に対して、昔から人々は、山を治め、河を治め、避難所をつくり、洪水用の船も用意した。
明治時代に入り、オランダ人の土木建設技師などの新しい技術によって、多くの河川の改修工事が行われ、川の流れを直線化し堤防も強固にされた。戦後になると、山林の杉なとの人工植林は、大規模になされたものの山林の管理は不十分なままで、また住宅地の開発も過去の災害に関係なく、次々と広げられた。
21世紀になると、以前に経験したことのないの熱帯の豪雨のような短時間の強い雨に遭遇するようになる。そして、土木工事の技術の進歩により、水害は防ぎうると安心していた時期に再び水害が日本の全土で起こった。気候はランダムに変わるものの、2000年以上の間、気候の変動はほんのわずかの変動の間で上下し、極端な振れ幅はなかったと言える。
21世紀に入り、異常事態が当たり前となった。この災害リスクは正規分布の中央に近いものであれば対応できる。しかし、正規分布の端の出来事、今まで起こったことのない気象の変化、100年に一度の異常気象が常態化すれば、国土計画を極端な災害に対応するように再編が必要になる。
今年の秋、規模の大きなカトリーナ級の台風が関東から東北地方を襲い、広範囲な地域、阿武隈川や千曲川の堤防決壊を多発させた。
今後台風、ハリケーンそしてサイクロンともに海水温の上昇、地球温暖化によりますます巨大になることが予想され、ますます高頻度に世界の各地で水害が起こる確率は高まってきた。しかし、これが日本のどこにいつ、どのくらいの規模で起こるかは予想ができない。確実なことは、今後は、地球温暖化によって、気象災害は過去の歴史にはなかった 激烈さになることである。
1959年の伊勢湾台風や1959年の第二室戸台風は5000人以上の死者を出した。これらは、海上では猛烈な気圧の低下と暴風雨は上陸時には、勢力はかなり衰えていた。しかし、当時の防災能力では、気圧低下と暴風による高潮で多大な被害が出た。
今年の台風による雨と風広範囲の持続する降水量の量は、現在より地球上の平均気温が4度上昇した時の台風によってもたらされる強度と一致することがコンピューターのシミレーションによってわかった 。
21世紀になってから、過去の巨大な台風を上回るスーパー台風 中心気圧は890ヘクトパスカルを記録した2013年のフィリッピンに上陸した台風ハイエンがある。アメリカのハリケーンもカテゴリー5といわれる風速59メートル以上のカトリーナなどの巨大なものが多発している。 昨年の関西空港の水没や、今年の広範囲の長時間の豪雨をもたらしたのは、日本の近海の海水温が低下せず、台風のエネルギーが南海上と同じ強度のまま上陸し、今までの想定以上の災害となった。
人は、未来は過去と同じようになると想像し、対応する。そのため未経験のことが起こる可能性を軽視する傾向がある。しかし、地球規模で起きている温暖化の影響で、今後、災害の規模は大きくなり、リスクが高まったことは確実になった。しかし、対応に困るのは、このリスク予想が完全にはできないことです。風速は最大何メートルになるのか、降雨はどのくらいまで激しくなるのか、その結果河川の増水がどの程度で、高波は最大何メートルになるのか。これがどこに、いつ起きるのかといったことの予想は今の所不可能です。
今年の企業の成長に最も脅威をもたらすリスクとして、 サイバーセキュリティーや保護主義より、気候変動リスクをあげた企業が最も多かった。 異常気象がニューノーマルとなれば、屋外の作業を減らしたり、屋外スポーツも制限され、工場の立地や流通を変えたり、住居の移転や災害に強い都市を作ったりする必要が出てきます。しかし、最悪を予想して万全の対策をとるのには膨大な費用と労力が必要になります。
今後は、最適な防災対策を実行するとともに、すべての国が地球温暖化を防ぐ低炭素社会に向かうことが重要になっています。