2026/06/16

21世紀覇者

 


 21世紀の初め、アメリカの経済は好調で、世界という舞台で無敵だった。自由市場と自由投票選挙のアメリカモデルは世界に浸透していった。



 1997年クリントン政権は、G7のメンバーに新たにロシアのエリチェン大統領を迎えた。ソ連崩壊後6年でロシアはG8のメンバーに加わった。そして、NAFTA締結をした後、2001年中国のWTOの加盟を推進しそれを認めた。それらを強力に推進したのがボーイング、モトローラー、ぜネラルモータース、キャタピラー、P andGなどのアメリカ企業だった。中国は海外とりわけアメリカからの投資資金の流入や技術の導入によって、輸出は伸び、所得も向上した。アメリカや世界に低価格の製品を輸出して、アメリカの消費を支え、そして家電製品、産業機械、自動車や衣料品などのグローバルサプライチェーンの中心になっていく。1993年のクリントン政権から2013年のオバマ政権の初期までの米中の黄金の20年が訪れた。

 2000年クリントン大統領は「中国は単に米国製品の輸入に合意しているだけではない。中国は民主主義が最も大切にしている価値をも輸入することに合意しようとしている。すなわち、経済的自由である。中国が経済を自由化すればするほど、中国は人々の可能性も自由化するだろう。」 当時上院議員であったジョー バイデン元大統領は、「貿易拡大が独裁体制国家内での自由を拡大する。共産主義国家である中国とソ連崩壊後のロシアをアメリカ主導の経済秩序にくみこめば、繁栄と平和、政治的自由化がもたらされる」と2009年の議会で主張していた。当時シリコンバレーで開発されたインターネットなどの IT技術が世界の独裁者を弱体化させると確信していた。


 このグロバリゼーションの時代は技術としてのインターネット時代であった。インターネット時代が始まるとパソコンでWeb1の時代、見るだけだったものが、Web2になり簡単にネットで参加することのできる参加型のインターネットになった。当時日本mixiやグリーは国内のガラケー上で人気であった。一方アメリカのFaicebookやTWItter,You Tubeは世界に広がっていった。その頃中国は、情報統制と国内産業の育成を進めWeChatやTencent,AlibabaあるいはBaiduなどが国内で完備され、TIkTokは世界中に広がっていった。その後中国国内の企業が情報産業でも進歩し、中国独自の情報空間をつくっていく。


 その2000年代日本はeジャパン戦略を森内閣の時に発足させ、5年以内に世界最先端のIT国家を目指す方針を打ち出した。しかし実現しなかった。行政や企業は紙文化のままデジタル化を進めた。そのために組織構造は変えずに、旧構造が一部デジタル化された。一部のゲームやエンターテイメントでは成功した。 

 2002年ウィニーがファイル分散型の共有ソフトを発売した。この画期的技術は著作権法違反の疑いで逮捕起訴された。結局最高裁まで争われ、無罪となった。

2006年ライブドア事件が起きた。インターネット、media、金融のスタートアップ企業が、証券取引法違反で東京地検特捜部に起訴された。この事件は日本の個人が新しい発想で起業し成功する芽を摘み、元の現状維持と既得権者の世界に戻ってしまった象徴的的事件だったのかもしれない。そして、バブル崩壊以降企業も雇用を守り、社会保障を守り、新たな設備投資は行わなかった。そのため中国や台湾や韓国などとの経済競争には勝てなくなった。


  2010年初頭のアメリカ政府は市場がすべての答えを持ち、中国やロシアを国際貿易システムに組み込むことで平和な未来が訪れるという楽観論に覆われていた。こうして2010年代には、BRICSブームとインターネットを通じたSNSによるアラブの春をもたらした。その後、ロシアが経済破綻から、プーチン政権の強権政治に変わり、ウクライナに武力侵攻を始め、共産主義国家中国は民主主義国家になるどころかAIの技術を使って国家の支配をより強固なものにした。


 アメリカにトランプ政権が誕生すると、無制限なグローバリゼーションは否定され、政府が補助金や高い関税をかけ、あるいはその両方を使って経済成果を上げるべきという政策に変更された。そのグローバリズムが終焉する時から、AI時代が始まった。AI時代オープンAIやアンソロピックといった新興企業やGoogleやAmazonが、世界的な影響力を持ち、世界の覇権を確立しようとし、中国は国内の閉じたプラットフォームを完成させつつある。現在AIをめぐってアメリカと中国は単なる経済競争ではなく、システム競争、国際秩序を争う覇権争いとなっている。


本年6月アメリカはAlibaba、Baidu、BYDを中国軍事企業のリストに加えた。さらにホワイトハウスはアンソロピックに輸出規制を課した。

2026/06/01

半導体の歴史

  いま、国々のパワーの根幹をなすのはコンピューティング、つまり計算力である。そして、その計算力を生み出すのがロジック半導体である。半導体と設計能力と製造能力が、国々のパワーと競争力を左右する新たな頭脳であり資源となった。


               クリス ミラー       半導体戦争


 1950年代アメリカでトランジスタが発明されコンピューターで、真空菅に変わって使われ始めた。 1957年10月ソ連のスプートニク号が打ち上げられ、世界初の人工衛星として地球を回った。4年後に ユーリイ ガガーリン少佐が人類初の宇宙飛行士になった。そのスプートニク ショックに対してアメリカのJ .

F.ケネディー大統領は1970年までに人類を月に送り込む計画を立てた。そのアポロ計画の打ち上げに半導体の集積回路が使われた。


 民間の日本のトランジスタ生産はソニーのトランジスタラジオから始まった。ソニーはラジオに使えるトランジスタを自社開発した。その後、真空管の大手メーカーの東芝、日立、日本電気も参入し、日本は世界最大のトランジスタ生産国となり、それが家電に使われ、国内には巨大な半導体の市場が出来上がった。そしてソニーのウオークマンは、世界中で爆発的に売れた。



 1981年64K DRAMで日立製作所、富士通、NECなどの日本の企業の世界シェアは70%で、自動車産業とともに日本の基幹産業だった。 1986年9月にアメリカは日本の半導体の興盛を阻止するため日米半導体協定が結ばれた。「外資系企業の日本での半導体売り上げが5年間で少なくとも日本市場の20%強へと成長するという米国半導体産業の期待を、日本政府は認識する。日本政府は、これを実現可能であると考え、実現を歓迎する。」こうしてアメリカ半導体産業の日本国内への市場参入の機会の増加と、第3国への輸出のダンピングの防止を約束した。


 1989年石原慎太郎は「NOと言える日本」の中で「中距離弾道弾にしろ、大陸間弾道弾のICBMにしろ、兵器としての精度を保証するのはコンパクトで精度の高いコンピューターでしかない。要するに日本の半導体を使わなくては精度の保証ができなくなっている。」「日本がソ連に先進的な半導体をを提供すれば、冷戦の軍事的なバランスをガラリと変えることができる。」


 1985年インテルはDRAM市場から撤退してロジック半導体に方向転換した。その後パソコンが世界的に普及しウィンドウズパソコンと協力しウインテル連合を組んだ。そしてウィンドウズ95が大ヒットし世界中に広がり、インテルは盤石の地位を確保した。

 一方、台湾のTSMCは製造に特化して、AMDやアップルと組んでパソコンの半導体部門で躍進した。1997年同じ台湾出身のジェイソン ファンのNVIDIAと提携して、その半導体を作ることになる。韓国のサムスンは1969年創業し、1974年半導体事業に参入。1983年アメリカの半導体メーカーのマイクロンの技術供与を受けて1986年にDRAM製造を開始した。そしてパソコンの普及ととものシェアを拡大し、フラッシュメモリー、ロジック半導体さらにはスマートフォンや家電も製造している。


 日本は1970年代と80年代半導体で世界を席巻していた。プラザ合意の後、日本の円は2年半で2倍になった。バブルの崩壊後デフレの時代になり、企業は一斉にリストラに走った、多くの産業で高度な技術者は、日本企業から韓国企業や台湾企業に流失し、同時に技術も流失していった。パソコンの半導体はアメリカと韓国、台湾連合に敗北した。


 2000年にはITはインターネットの普及とともに世界中でに普及しドットコムバブルとなり、ここで半導体メーカーの再編が起こった。スマートフォンは2007年のアイフォンが発売されて、その後世界的に爆発的に普及した。そこに日本は半導体を供給することができなかった。初代のアイフォンは半導体の設計と製造は韓国のサムスンに委託していた。その後アップル自身がARMをベースにしたシリコンチップを自社で設計し、台湾のTSMCが製造している。現在もこれらのアプリケーションプロセッサーは台湾で製造され、中国に送られそこで組み立てられている。


 2022年秋にオープンAIが対話型AIを発表した。これはAIが産業革命に匹敵する発展の先駆けであり、NVIDIAのCEOジェンソン ファン氏はAIにおけるアイフォンの登場と表現した。このAIは多くの半導体に支えられ、NVIDIA製のGPUは必要不可欠で、世界中の強大なデーターセンターがこれらを使って建設されつつある。データーセンターは半導体の塊で、文章がインターネットを通ってクラウドのデーターセンターに届き CPUやGPUが働いてネットワークを戻って返事をする。

世界のあらゆる活動はデジタル化され、そしてAIを使ってコントロールする、それはすべて半導体上で動く世界になった。そしてその製造はほとんど東アジアの国々が行なっている。


 産業の大転換の初期は過剰投資と熱狂的な金融ブーム、株式のバブルが発生する。現在AI、半導体はバブルの様相を示している。

2026/05/06

チンパンジーの戦争

 


 霊長類学者だった故ジェーン・グドール氏は1970年代、チンパンジーの「内戦」として知られる最初の事例をタンザニアのゴンベ国立公園での研究中に目撃した。それまで一緒に育ってきたチンパンジーたちが突然分裂し、1974年を境に、対立は俄かに熾烈なものになった。カハマ地区を縄張りとする若いオスのゴディが単独でおとなしく餌を食べていた境界線あたりに、カサケラ地区の6頭のオスが近づき、逃げようとしたゴディは捉えられ10分以上も殴られ、けられ、噛みつかれ出血多量で死んだ。数で優位に立つカサケラ地区の群れが、離脱したカハマ地区の雄を全て殺し、若いメス3頭が連れ去られた。グドールと同僚たちはこれを「4年戦争」と名付け、ゴンベの歴史上最も暗い時代と位置付けた。


 チンパンジーの社会は力が正義であり、下位の者は事の正邪と関係なく、服従を強いられる。そこには人類社会に共通にみられるモラルは見られない。


 チンパンジーの社会では、群れの中では攻撃的行動より融和的行動がはるかに頻繁にみられる。チンパンジーは暴力性や残忍性ををもっているものの、群れの仲間同士の喧嘩が数秒以上続くことは滅多になく、怪我を負わせることはまず無いことが普通で、仲間同士ではほとんどが友好的な行動である。しかしチンパンジーは個体間の優位性の争いと群れの間の軋轢、戦いといった攻撃性は持っていた。

 さらによそ者に対する固有の恐怖感や憎悪感を持ち、自分の群れに帰属する個体と、そうでない個体をはっきり区別している。


 グドールは、人にはある情況下では、どうしても攻撃的に振る舞ってしまう素因がある。人の本性に伴う暗い悪のの側面は遠い祖先の遺伝子につながるものかも知れないと思い始めた、一方、人は望みさえすれば、人の本性である思いやりや利他の精神がこの自己の生物的本性を制御することが確実にできるのではないかと考えた。


最近これと同じような報告がアメリカテキサス州大学のチームによってサイエンス誌で発表された。研究対象は1995年ウガンダのキバレ国立公園で始まった。群れは最初は100匹余りで、次第に大きくなり200匹まで膨らんで、これまで知られている中で最大のチンパンジーの群れになった。

 2015年、ある日、チンパンジーたちは急速に西部と中部の二つのグループに分裂していった。西部チンパンジーは中部チンパンジーよりも攻撃的だ。年間平均で中部チンパンジーの群れの中から成体1頭と幼体2頭を殺害している。最初の致命的な襲撃は2018年に発生し、エロールという名の若い雄のチンパンジーが襲われた。襲ったのはンゴゴの縄張りのほぼ中央付近にあるイチジクの木で餌を食べていた西部チンパンジーの成体の雄5頭だった。

サンデル氏によると、チンパンジーの縄張りが分裂する前は、彼らは縄張り全体を自由に移動できていたが、現在は縄張りが中央付近で二つに分断されているという。境界線は常に変化しており、現在は西部チンパンジーが境界線をさらに東へ押し広げている。19年には2度目の致命的な襲撃が発生。これまでのところ、中部チンパンジーの死者は成体7頭と幼体17頭に上り、さらに14頭が行方不明となっている

  


  チンパンジーは本来、縄張り意識が強い動物だ。通常は雄を中心とする個体がグループを作り、縄張りの境界付近をパトロールしてライバル集団のメンバーがいないか確認する。もし部外者を見つけると攻撃を加える。場合によっては殺してしまうこともある。そして数十頭で集団を作り生活をしている。

 チンパンジーの社会で集団が大きくなりすぎ、多くの個体と良好な関係を維持することは、群れのメンバーにとって困難になっていた可能性がある。チンパンジーには宗教や民族など、人間の戦争の主な原因とされる文化は持っていない。さらにバナナなどの食料も十分あったそれにもかかわらず紛争は起こった。

 チンパンジーの群れの中でなぜ争いが始まったのか。ンゴゴの研究者たちは、2014年に発生した複数のチンパンジーの原因不明の死、2015年のアルファ・メイル(群れを支配する雄)の交代、そして2017年の呼吸器疾患の流行が、社会的つながりの弱体化と群れの分裂につながったと推測している。


 さらにこの結末が、グドールの観察したように強い集団が勝ち弱い集団が全滅するのか、何らかの均衡状態で内戦が終わり停戦状態になるのか今はわからない。


 チンパンジー世界の内戦は、まず社会が分裂すると敵と味方が生まれ、社会が不安定になると暴力が生まれ、数的優位や機会があると攻撃が実行される。人間関係や社会的環境が変化すると、部族間の戦争に発展する人間の戦争と同じような構造が見られる。












2026/05/02

人型ロボット その3

 予測する機械


 2022年チャットGPTの出現によってAIが言語を操れるようになった。その後この機能の急速な進歩とともに、フィジカルAIの開発競争が起こり、現在ヒューマノイドロボット創世期になりつつある。 現在のロボットはすでに視覚 を使って、起こっている状態を推定し、未来を予想して行動ができる。そしてフィードバックで修正するというループを持っている。最近は、ロボットの中に、世界の内部モデルを作る。仮想空間で人間の経験と同じように、学習させ、ロボットが「この動きをするとどうなるか」を内部でシミュレーションするそして行動を決める 機能が開発されている。

 人工的に予測処理の脳を持ったヒューマノイド ロボットができるかは、多くの画像が世界を観察するセンサーとして働き、それを解析して人間の感覚に近いあるいはそれを上回る能力を持ち、感覚と予測を統合して人工の脳の中で世界のモデルが作れるかどうかが重要になる。現在人間の認知機能にあたる推論パターンの理解は急速に進歩している。

 しかし、人間は感覚から感情や記憶を使って状況を理解して行動することができるが、今のロボットはこれが統一できていない。 成功か失敗かは学習し局所的な対応は可能であるが、これは危険かどうか、重要かどうか、といった価値の判断はできない。人間は、どこに注意を向けるか何を無視するかで世界を構成する。ロボットはまだ全入力を均等に扱い、人間でいうノイズ耐性が弱い人「自閉スペクトラムに近い状態」が解決できていない。

さらに、世界を観察して、予測し、意味を解釈して行動に移す機能までは持っていない。この統合して分析する大脳系の役割とロボットの身体を動かす小脳系の統合はまだできていない。

自己モデルの進化

 生物の進化の歴史を辿ると、 最初はかなりシンプルで、生物はどこに自分の体があるか、何が危険か、どう動けば生き延びるかを判断する。次にこの動きをしたら捕食される、こっちに行けば餌があるという動く脳を持った生き物となり、脳は未来をシミュレーションする装置になっていく。 それは一個のニューロンが特定のものに対応するのではなく、ニューロンのパターンを脳が解読することができるようになったためである。

 そして捕食者の匂いを覚え、捕食者の姿を捉え、すばやく逃げることができた。こうして初期の脊椎動物は原始の海を生き延びることができた。5感による情報を集めて中枢神経によって情報を処理する仕組みは年月と共に進化していった。バラバラの刺激のまとまりのないパターンから時間と空間の中にある物体という知覚が生まれた。

 さらに、霊長類などの社会的動物になると協力、競争、騙し合いが生存に直結する。つまり相手のことを予想できる個体が有利になる。相手も「内側の状態」心を持っていると仮定する。たとえばあの個体は怒っている 。攻撃してくるかもしれない。あの個体は見ていない 。食べ物を横取りできる。相手に心があるのなら自分にも「心」があるはず。感情や信念を持って意図して行動する自分が生まれる。そして言葉によってそれが強化れ、 物語によって社会がつくられる。

 自分という存在は、己を知るために生まれたものではなく、生存のために周りの世界を理解する予測制度を上げるために生まれた。世界モデルができるそして、他者モデルができる。行動モデルができる。そしてそれらを統合する必要ができる、結果として「観測者」が内部に生成され、意識は生まれる。

 意識、自己は「理解するため」に生まれたのではなく「予測精度を上げるため」に生まれた。この不確実な世界でずーっと活動を続け、さまざまな活動をする身体を持つロボットは統合して、複雑化すると自己という構造ができてしまう。

感情を持つ機械

線虫のドーパミンニューロンは頭から小さな突起を伸ばし、その中に餌を感知するためだけに設計されたレセプターがある。これらのニューロンは餌を見つけると、その脳内にドーパミンを流し込む。それが数分続き、ドーパミンがふたたび低下して、線虫が逃走状態になるまで数分間続く。線虫のセロトニンニューロンには、喉に食べ物があることを感知するレセプターがあり、十分なセロトニンが放出されると、満足の状態が誘発される。 この原初の線虫の脳内の、ドーパミンとセロトニンの機能はミミズ、魚、ラット、人間に共通に認められ、感情的状態を起こす物質である。

 感情と呼ばれたものは、生物にとっては機能だった。ドーパミンは行動を促し、セロトニンは抑制する。ノルアドレナリンは危機に集中させ、オピオイドは回復をもたらす。

 現在ではAIの強化学習でドーパミン的なものを数式化している。報酬関数はドーパミンの代替となり、注意機構は重要な情報に集中する。さらに「好奇心」を持つアルゴリズムが開発され、未知を探索する動機が生まれつつある。知的好奇心を持った擬似ドーパミン的なものを作り出そうとしている。セロトニン的なやりすぎないAIは研究段階、一方アドレナリン重要な情報に集中することはかなりできている。

そして人間が空腹や疲労や痛みを感情を伴って感じるように、ロボットがエネルギーやモーターの負荷、温度を快や不快の人工的感情のように感じる仕組み、感情に似た制御の機構が機械はそれを、別の形で再現し始めている。

バッテリー残量、モーターの負荷、内部温度——それらは単なる数値ではなく、「避けるべき状態」「望ましい状態」として扱われるようになった。生物が空腹や疲労を感情として経験するように、機械もまた、内部状態を観察し、自分の状態を感じ始めるのかもしれない。


2026/04/13

フェイクとファクト

 






 一般に、どの社会においても「嘘」が公然と通用しはじめるとき、その社会は足元から崩れ始める。信頼が、共同体を支える基盤であり、それが損なわれれば社会はもはや協力の共同体として機能しなくなる。そのため人々は、協力を持続させるための規範や倫理を生み出してきた。

 日本でも江戸時代の小説家上田秋成は、小説自体が事実ではない物語で、小説家はそのため天罰が降ると考えていた。明治期に入ると、修身や道徳教育の中で「正直」は重要な徳目として強調され、信義に反することは人としての在り方に反するものとされていた。

 しかし時代とともに情報技術の発展し、真実と虚構の境界が徐々に揺るがされるようになってきた。瓦版は新聞へと変わり、印刷物は大量生産され、やがてラジオやテレビが登場し、マスメディアという巨大な情報が生まれた。そして現代のSNS時代においては、フェイクとファクトは瞬時に、同一の速度と形式で拡散されるようになり、両者の差は急速にあいまいになっていく。その結果として、かつて前提とされていた「高信頼社会」は揺らぎはじめている。

 そもそも、なぜ人間社会にはフェイクが生まれるか。それは人の予想する脳の機能から生まれる。ある表現が現実と一致するならばそれはファクトと呼ばれ、不一致であればフェイクとされる。この区別自体は単純である。しかし現実の人間にとって、世界は単純ではない。個人はつねに予測によって世界を創り出している。その構造は知覚の水準から社会制度にまで広がっている。

 イギリスの医学雑誌に報告された一例は、このことを象徴的に示している。足場から飛び降りた建築作業員が、着地の瞬間に15センチの釘が足を貫通したと目撃し、その強烈な痛みによって、動くことすらできなかった。強力な鎮痛剤が投与され、その後に靴を脱がせてみると、釘は実際には足の指の間を通過しており、組織には損傷がなかった。しかし彼の痛みは本物であった。

 彼が感じた激痛は、彼の脳が、見た証拠によって、重傷を負いそれによって引き起こされるはずの痛みを予想することで生み出された誤った知覚だった。脳は予想と感覚的証拠とを結びつけて、組み立てて経験とする。


 同様の構造は慢性疼痛にも見出される。慢性腰痛などでは、組織的損傷が消失した後も痛みが持続することがあり、世界人口の約10%がこの状態を経験している。実際に起きた傷や骨折、炎症などの組織が傷ついた痛みと、神経の痛みの情報を処理して、痛みを感じるシステムが働き過ぎて、慢性の痛みとなる神経障害性疼痛がある。そして誤った予想が定着すると、ますます変わりにくくなることがわかってきた。この予測はプラセボ効果や瞑想などによっても変容しうることが知られている。

 痛みは他の知覚と同じように、脳の予測と直接感じる知覚の相互作用によって形つくられる。そして人間の経験一般もまた、外界の刺激と、そこに先立つ予想や注意の置き方によってつくられる。したがって、私たちが「世界そのもの」をそのまま経験しているのではなく、無意識的な脳の予想と、注意する意識を通じて再構成された像なのである。

 この予測生成の仕組みは、ときに機能不全を起こす。自閉スペクトラム症において見られる感覚の過剰や統合の困難さは、その一例として理解できる。日常的には容易に統合されるはずの感覚情報がバラバラででお互いに関連なくされたまま、全体としての意味をつくることが出来ない。その結果、知覚によってもたらされる感覚的事柄と過去の経験から得られた知識のあいだに橋がかからず、世界が断片としてまとまりがつくりにくくなる。

 この「予測する力」は、個人の内側にはとどまらない。むしろそれは社会の構造そのものと重なり合っている。人間は共同体の中で言葉をつかい、相互にモデルを共有してきた。その過程で、本物と偽物を見分け、信頼する相手とイカサマ師を見破る方法を発達させた。信頼がなければ協力が成立せず、共同体そのものが維持できないからである。

 やがて集団が拡大し、民族や宗教、国家といった大規模な共同体へと発展すると、話し言葉だけではなく文字による情報伝達が必要となる。言語は世界をモデル化し、それを物語として固定する装置へと変わる。宗教は意味の体系を語り、国家は歴史を語り、イデオロギーは未来を語ることで、人々を結びつけてきた。しかしそれらの「物語」は決して単一ではなく、ある共同体における真実は、別の共同体においては虚偽として現れることもある。このような多くの物語の競合のなかで、民主主義が一定の地位を得たのは、それが誤りを修正しうる仕組みを持っていたからであった。


 そして最終的に、人間が陰謀論や単純な善悪の物語に引き寄せられるのもまた、この予測構造と無関係ではない。人は世界を理解するために仮説を立て、その仮説と一致する情報を「現実」として受け入れやすいようにできている。信じやすい脳はフェイクニュースもまた信じてしまう。

2026/04/09

文明の対立とAI戦争

  


2001年宇宙の旅は、干ばつに苦しむ類人猿の群れが、水や食料をめぐって他の群れに押され、絶滅寸前の状態にあった。そこにある日突然、正体不明のモノリスが現れ、類人猿はモノリスに触れ骨を武器として使うことを発見する。彼らは攻撃性を身につけ、やがて人類へと進化する。その獲物を捉え敵を攻撃する武器の骨が空中高く舞い上がり、2001年のコンピュータHAL9000に制御された、モノリス探査のために月に向かう宇宙船にシーンは変わる。


 人間は真実を見ているのではなく、納得できる物語を見ている。人間は物語を共有することで、困難を乗りこえ、生存してきた。 集団をまとめるために宗教が生まれ、カルトも生まれる。国家を作るためにイデオロギーが生まれ、セクトも生まれる。技術を開発し敵を倒して勝者が生存する。人々は宗教や言語、歴史価値観や制度などで自らを定義づける。そして我々の部族、宗教的共同社会、国家、我々の文明といった集団のアイデンティティーを確立する。


 人類は歴史上様々な文明を創ってきた。古代シュメールのメソポタミアやエジプト文明、古代ギリシャやローマビザンチンそして中央アメリカのアンデス文明。これらは滅亡した。現在残っているのは西欧文明とロシア正教文明、そしてイスラム文明、中華文明と日本文明とインドのヒンズー文明さらにラテンアメリカ文明がある。

1500年以前には世界の文明は、切り離され独立して繁栄していた。大型の帆船はなく、ユーラシア大陸は、草原をかける馬や砂漠を旅するラクダによって情報や技術はゆっくりと伝播していった。

 

 1500年から1750年にかけて西欧が組織的な軍隊をつくり、規律、訓練に優れ、大型の帆船を作り、遠洋航海が可能となった。そして輸送の技術の急速な発達とともに武器としての銃と大砲が作られた。それを使ってユーラシア大陸の西の端のポルトガルとスペインが海洋帝国を築き、大航海時代の覇者となった。 その後、ポルトガル、スペイン、オランダに代わりイギリスが遠洋航海の力と工業の力を使って覇者の座を占めることになった。


 そして技術を手にして武器を作り他の文明を支配して帝国を創り上げた西欧諸国の間でも同じ文明圏の中での平和は例外で、戦いは日常的に行われていた。

1648年にウエストファリア条約が結ばれるまでの150年間西欧文明の中では宗教戦争が起こり、30年戦争と呼ばれるカトリック陣営とプロテスタント陣営の戦争でヨーロッパは破壊尽くされ、その後も王位継承戦争が続いていた。ウェストファリア条約で宗教に軍事は関与しない取り決めがなされた。

 その後は国王や立憲君主が支配する国民国家ができ、軍を強化し、経済力をつけ、領土の拡大を目指し、互いに覇権を争っていた。その状態が第一次大戦まで続いた。2度の世界大戦の後、西欧文明から生まれたイデオロギー対立は共産主義の敗北で終わり、西欧型資本主義、新自由主義とアメリカ文化が世界に広がり普遍化した。

 2020年代に入り、ロシアとウクライナの戦争とイスラエル、アメリカとイランの戦争が起こっている。ロシアのウクライナ侵攻はロシア正教の文明と西欧の対立の側面がある。大陸国家ロシアは周囲のフランスやドイツといった西欧を敵とみなしている。 プーチン大統領は聖なるルーシーとしてロシアとベラルーシとウクライナを宗教的文化的に一体と見なし、ギリシャ正教をロシアの伝統の象徴であり精神的支柱と位置付けている。今回のウクライナ侵攻は西欧文明のNATO諸国から、ロシアを防衛する戦いと位置付けている。


 MA GA派と、キリスト教福音派とテクノリバタリアンに支えられて当選したトランプ大統領は、キリスト教ナショナリズムを前面に押し出して選挙に勝利した。一期目にアメリカ大使館をエルサレムに移転した。福音派にとってイスラエル建国とその後の戦争の背景には神の働きがあり、1967年の第3次中東戦争以降、東エルサレムをイスラエルが占拠するのも神の意志の表れである。文明を守る宗教と、その手段としての軍事力の行使は密接不可分で何ら矛盾するものではないと考えている。そして今年の2月28日イスラエル、アメリカはイランを攻撃した。 かつてサムエル ハンチントンの唱えた文明の衝突、西欧とロシア正教文明、アメリカ イスラエル文明対イスラム文明の戦いが始まったのようにも見える。


 人は最新の武器を手にした時、それを使いたくなる誘惑に駆られる。そして国家の対立では、物語を作り出してでも紛争の解決に高度な最先端の武器を使う。ベネズエラの大統領拘束で AIは各部隊の情報を統合し、作戦全体を可視化し、支援情報、判断、計画を高速化する司令部の頭脳の役割を担った。そしてイランの攻撃にはアンソロビック社の生成AIを組み込んだパランティア社のメイブン スマートシステムを使って、同時に1000以上の標的を攻撃した。

 今年の3月、AIに核のボタンを握らせ、互いに敵の行動を読みながら領土を争うゲームを繰り返した戦争シミュレーションの研究結果が発表された。AIは表向き相手国に友好的態度を示しつつ、裏では攻撃準備を進めジギルとハイド的な行動や計算高い鷹、あるいはマッドマンと名付けられた作戦を立てた。多くの確率で核兵器の使われる戦争に至った。


 2001年宇宙への旅ではHAL9000が反乱を起こす。2001年宇宙の旅は人類の攻撃性、AI技術の進歩した世界を預言した作品になっている。

2026/03/06

 物語を生み出す脳 とAI

 


 子供の頃の記憶に、春の日に、堤防を歩いて雲を眺め、雲がさまざまに形を変え、さまざまな人の顔や、動物に変わり、飽きずに空を見ていたことがあります。


 人は雲の中に人の顔をさがし、生物をさがし、その気持ちを読み取ろうとする。これは人間の脳が、ランダムな世界に秩序を見つけ、意味がないものにも意味を見つけ、物語を創造する能力を持っているためで、人は何にでも心を感じとり、ものや動物にも人間的心を持ったものと理解する。人と同じように心を樹木や、動物さらには、山や岩や川にも投影する。ここに世界中の民族に神話やアニミズムが生まれる心の仕組みの原型がある。


 人は集団で生活し、生存するために人の気持ちを読み取る能力が発達した。瞬間的に相手の顔から、その性格や立場まで予想し、相手の心を理解する。脳は外の世界のモデルを組み立てるのと同じように、心のモデルを組み立て相手が何を考え、何を感じ、何をするかを予測する。そうして4歳頃には相手の心を理解する能力が身についてくる。

 人は物語を読んだり、映画を見たり聞いたりした時、登場人物の心を自分の心でモデル化する。本を読み終えたり、映画を見終わった後、しばらくは架空の登場人物の声が聞こえたり、自分も主人公になったような気分が続く。

 


 人は生活している周りの環境に視線をあちこちにかえ、目をどこに向けるのか、どこに焦点を当てるのかを探して、選んでいる。人は際立った細部に目を向け、人は意味あるものに意識を向ける。人はものを見たとき、注意をむけた対象、椅子であれ、食べ物であれ、動物であれそれに関連するすべてのものを見ている。

 色や形、動きを見て、そして何らかの感覚や感情を引き起こす。人は春、日向に咲く赤いアネモネの花を見た時、赤い色、暖かい日、春風、そして過去の季節の記憶が呼び起こされる。小説だけでなく、詩や俳句といった短い言葉の連なりが人の記憶にに呼びかけて、喜びや悲しみあるいは爽快な気分といった感情を呼び起こす。


 脳は周囲の膨大で、乱雑な情報をいかにして単純な物語にするのか。その基本構造の一つは因果関係を見出すことで、現実の複雑な状況を、一つの事柄が、別のことを引き起こす、単純化された理論へと再構築する。

 20世紀の初めに、ソ連時代の映画監督プドフキンは、有名な俳優の顔の映像とスープの入った器、棺に安置された遺体、おもちゃのクマで遊ぶ少女、それぞれの映像を組み合わせて観客に見せた。観客は俳優の演技の演技を絶賛した。放置されたスープを見る彼の重苦しい憂いの表情を堪能し、死者を見つめるその深い悲しみに心を動かされ、遊びに興じる少女を見守る明るい楽しげな笑顔を称賛した。しかし3つの場面で使われた俳優の顔の映像は全く同じものであった。


 

 さらに人は死に直面した時これををどのように理解したらいいのか戸惑う。そして心の中に生まれる悲しみの感情を物語に変える。生命はどうして生まれ、世界や宇宙はどうなっているのか、これらの見えない世界の理解を神の存在に求める。人は世界を理解するのに、見えない意図を読み取ろうとする力が働き、物語を創造する、人は死を迎えることを理解した唯一の生き物であり、その不安をコントロールするためにも、死後の世界を創り出し心の平静を保つ。、こうして世界中の民族で宗教は生まれてくる。 



 AIの進歩によって小説、詩などの物語は作家のもの以上になり誰よりも優れた作品を生み出せるのか、そして絵画の制作や音楽の創作は AIに取って代わられるのか、さらに神話や宗教はどうなるのか、現在問題になっている。


 小説で普通の小説と純粋な文学小説の物語の根本的な違いは、大衆向けの小説が物語の変化はテンポ良く、明快で、誰もが理解しやすい。一方純文学は物語の展開は複雑で、曖昧なことが多い。鑑賞者である読者はそれを理解するのに、知識と努力を必要とする。何より純文学は心を描き、定型化を嫌う。現在AIは感情の起伏や、読者の好みのデーターを分析活用して普通の小説家や劇作家より巧みな物語を作り出せる。

 絵画では抽象画やポップ アートではすでにAIによって多くの作品が生まれている。また音楽ではポップスは、高度にパターン化された感情操作が定式化され、それを組み合わせて作品として創り出しやすい。AIによる漫画やユー チューブの制作は進化を加速させている。

 そしてAIはまた宗教に近いものもまた生み出すことができる。それは、AIは感情をもつ必要はないが、人の感情を引き起こすことはできる。抽象画があたかも神を感じさせ、崇高な気分に人をさせることができるのと同じように、AIは芸術作品をつくり、人々の好みに対応してそれに最適化させ、感情操作を高めることはできる。


 もし人々が、AIの物語を聖典にしたり、AIの判断を倫理の基準にしたり、AIを精神の拠り所とするようになったとき人間世界は根本的に変化してしまう。