サバンナで人類は生まれ、飢餓、病気、捕食者からまぬがれ知性を進化させ、生きてきた。人間は意識する自分が、充分な情報を持っていない時、行動に移すのは、私たちを支配する感情である。
17世紀オランダは世界の覇権国となった。16世紀末、トルコ原産の珍しい球根がオランダに持ち込まれ、この球根は、様々な形の綺麗な花を咲かせ、人々はそれを買い求めはじめ、チューリップの球根の値段は見る見るうちに上がり、貴族も庶民もそのチューリップ熱に取りつかれた。これが歴史に残るチューリップバブルの始まりで、1634年から1637年の数年間にかけて人々は土地、宝石、家具を売ってチューリップの球根を手にれようとして奔走した。
18世紀にはオランダに代わってイギリスが覇権国家となった。1711年イギリスの国策会社南海会社が設立された。そして南米での貿易を一手に担うことになった。この会社の株は値上がりし、国王や議員たちも、あらゆる階層の国民は、これらの新会社の株を求めて殺到した。そしてこの南海バブルも数年で崩壊し、バブル防止法がイギリス議会で制定された。1720年のバブル崩壊で大きな損失を被ったニュートンは後に「私は天体の動きは計算できるのだが、人間の狂気ばかりは測りきれない。」と書いている。
20世紀に入ると覇権国家アメリカは、1928年から1928年に壮大なバブル時代を経験した。1929年のこの暗黒の木曜日以降、30年代の大恐慌の時代になっていく。その後、今世紀に入っても、アメリカITバブルや不動産バブルがアメリカで起こり、世界に広がっていった。
日本でもやはりバブルは起こった。多くの人の記憶に残っているように、1960年から30年後の1990年にかけて日本中の投資家たちは熱狂した。土地の値段は70倍になり、日本の地価の総額は、アメリカの全土の5倍になり、日本の首都圏だけで、アメリカ全土と同じ値段になった。株価も1955年から1990年で100倍に上がり、1989年には日本の株価は世界株価全体の45%にもなった。高級な服や家具や車を人々は買い求め、土地やマンションは投資の対象となり、不動産の投資はブームになった。1989年の株価はピーク時に4万円近くに達した。それが2年後には1万4300円と63%も下落した。そしてバブルは崩壊し日本の経済は失われた30年間と呼ばれるようになった。今年になり株価は上がり当時の最高値を超えて、史上最高値になった。
バブルの初期では、楽観的な感情が個人個人に高まり、他の人の反応や共感が共鳴し、次第にそれが社会に広がり、報道され、人々を陶酔させる。バブルは人間の心の報酬システムを使って、経済的利益に対する期待を高める。この行動の原動力はサバンナで生き残るために適応した感情である。感情はサバンナで食料を求め、本当にそれが手に入るかどうかはわからなくてもワクワクした気分になり、新しいものをみつけ、結果はわからなくても、食べ物が手に入るかもしれないという期待感がドーパミンを放出させ、行動に駆り立てる。その報償システムが働き、時には食べ物の果物が手に入り、時には期待外れに終わる。脳の感情の役割は、お腹が減っている時、食べるものを見た時に脳がドーパミンが放出され、食べたいという欲求を促す。感情が湧いて、脳から、体に連鎖的に反応を起こし、活動し食べ物にありつく。そして体内のモルヒネと呼ばれるエンドルフィンが満足感をもたらす。
サバンナの刻々と変化する自然の中で、生きぬくための行動をする。結果的にその行動が成功すれば、それが習慣となり意味あることになる。意味ある行動の原理によってサバンナ時代と同じように人々の感情は動き、人々は共鳴し、陶酔しバブルとなる。やがてバブルは、万有引力の法則と同じように、ピークを超えると価格は、少しずつ下がり始め、人の心に恐怖や不安が広がり、やがてバブルは完全に崩壊する。
なぜそれが起きるのかを説明する行動経済学という学説が、今世紀になり広く認められるようになった。経済も合理的判断ではなく、感情で動いている。人は自分の信念や能力に対する過信と、将来に対する過度の楽観主義がある。悪いことの起こる確率を過少評価し、過去の楽しい記憶を使って、未来を描く。未来を過去の経験の繰り返しと想像する。そして過度の楽観主義に陥る。さらに、新たな情報を自分に良いほうに解釈する、知識の錯覚が起きる。
群の心理 個人個人が集団で行動するとき、まちがった考えは訂正されず、集団思考となって群を支配する。そして根拠なき熱狂は生まれてくる。さらに人の心は損失に対してより痛手を感じ、損失を回避し、損失をより少なくする行動を取りたがる。
人々の経済活動を支配しているのは感情であるとする行動経済学が認められるようになったのは脳神経の研究が進歩したためです。人間の行動に脳のどの部位が働いているのかがPETやMRIを使った画像診断で明らかになってきました。脳神経における感情は扁桃体とその周辺の活動によるもので、理性は大脳の新皮質の働きです。
初めはラット扁桃体と新皮質との関係の分析から、感情の行動に果たす役割の研究は始まった。ラットの新皮質は感覚、見たり触れたりしたものを意識して、行動する。それとは別に危険な状況に出会うと、ラットの扁桃体が直接に働いて情動と結びついた新皮質には関係しないルートを使って情動的反応から行動する。 同じように、人間もまた、意識する脳である新皮質とは別の、無意識の怒りや、恐れ、羨望、冒険心や挑戦、意欲といった感情から行動にうつす場合があることがわかってきた。
怒りの感情は危機に立ち向かわせる気持ちを起こし、不安や恐怖を感じた時にはアドレナリン出て、脈は早鐘を打ち、血液は全身に送り出され、突撃に備え、恐怖心を消し去ってしまう。悲しみや、憂うつはリスクに対する不安を起こし、行動は慎重になりその場にこもったり、撤退を考える。
ある脳の怪我をした人が、記憶力や、視力も、手や足や全身の活動、合理的な思考が保たれていながら、日常生活で決めて判断する能力、決定する能力だけ無くして、感情活動が低下し日常の生活を台無しにした人を報告している。感情が行動に意味を持たせて、行動を決めている。感情は意識する脳が世界をどのように捉えるかまで決めていく。過去の経験は感情と結びついて記憶され、それに元ずいて行動を起こし、未来を予測することができる。
サバンナの環境に適応し、生き残った人類は、環境は変わった現在の世界でも、合理的な判断だけではなく、感情で支えられて、過激な行動や愚かな行動を起こしている。この行動の原理が、経済も宗教や政治も感情の虜から逃れることのできないわけが、脳の神経生物学的研究で解明されつつあります。