2022/07/31

トムクルーズのトップガン  若さと新宗教



 トップガンが今年再び世界中で上演され、アメリカで話題の映画となっている。トップガンはトムクルーズがハリウッドのスターになる最初の出世作で、1986年に上演された。それから36年、永遠の若さを保つトムクルーズが再び戦闘機の天才パイロット、マーベリック教官として帰ってきた。トムクルーズはミッション インポシブルシリーズやアカデミー賞候補作品だけでなく、バニラ スカイ、宇宙戦争、オプリピオン、マイノリティー リポートなど多くのSF作品で主演し、今でも世界中で放映され人気を保っている。

 

 トムクルーズ60才、老化することを知らないハリウッドスター。ベビーブームから彼らの世代にかけて世界は時間とともに良くなり、死や老化さえも克服され、より良く、より健康に年をとることができるという未来を思い描いている世代である。彼ら世代は、もしかしたら永遠の若さを保つことが可能かもしれないという希望から、老化のメカニズムを解明し、永遠の若さを手に入れる研究を進めている。

  その研究の結果明らかになったことは、「ホッキョククジラは哺乳類の中で最も寿命が長く、人間の平均寿命の平均3倍の寿命で、これは生物の進化の途中で遺伝子の変化によって種の寿命が延びたためである。」また、マウスの平均寿命の10倍の30年生きるネズミも見つかっている。 今年の6月には、「カメでも加齢で死亡リスクは上がるようだが、極めて遅く、事実上老化はない。」という科学論文がデンマーク大学から発表された。カメは成熟しても成長が止まらない。それは細胞の修復機能が維持され、老化しないのではないかと想像される。


 現在人間を作っている3万3000個の遺伝子の内3万2340個は何の役割をしているのかがわかっていない。このゲノム情報と表現型の情報を組み合わせて統合ゲノムを作ると、遺伝子と実際の人の形や病気の可能性まで明らかになる。健康、老化、病気は遺伝子から解明される。

 2015年に人間のDNAの一部を解析して、実際の顔を正確に再現できるようになった。この研究チームは次に目指したのは人の健康寿命を伸ばす研究になった。遺伝子の解析で、この遺伝子の命に影響を与える病気が現れる前にこれを取り除くことができれば人はいくらでも健康に年を重ねられる。さらに、昨年2021年日本の研究で老いたマウスから肉体の衰えにつながる老化細胞を取り除く実験に成功したと報じている。

 

 不老長寿の夢の研究だけでなく、身体機能の回復の研究も進化している。2014年のSF映画オールユーニード イズ キルではトムクルーズがロボットの外骨格を使ったジャケットで戦場に現れる。これが現在コンピューター化した外骨格を人の下半身にストラップで装着し、脊髄の損傷患者などが、立ったり歩いたりするときの支援に使われている。さらに脳マシーンインターフェイスと言って、脳内に小さいコンピューターチップを埋め込んで、脳の機能を拡張する研究が進んでいる。


 一方で、人の脳の活動、心の働きは複雑で、なかなか機械で制御することは難しいのが現実で、 トムクルーズはディスクレシア(識字障害)に悩まされ、時々自分が何者かわからなくなることがあったことや、アルファベットのbとdの文字が判別しにくく、台本をアシスタントに読んでもらいセリフを覚えたことを語っている。 その心の違和感や惑いを感じていたときサイエントロジー教会に出会い、今でも深く関わっている。 


 サイエントロジー教会は、1954年にロン ハバートによって設立された新興宗教で、人生をより良くしてゆくための実践的方法が描かれ、自分の成長を無意識に妨げている、過去のトラウマなどの原因を取り除いて、自分本来のあるべき姿を見出し、人生を成功に導く方法を示す実践的宗教哲学。世界で900万人以上の信者を抱え、各国に音楽学校、美術学校、演劇学校やコンピューターの会社や不動産会社を名前を変えて、活動を展開し信者を獲得している。営利団体なのか、カルトなのか、宗教団体か、国によって評価が分かれている。アメリカ、イタリア、ニュージーランドでは宗教として認められ、フランス、ドイツ、イギリスでは認められていない。


 アメリカでは他にも何百もの新宗教運動の団体があり、1970年の後半からは、ヒッピー運動のカンターカルチャーと霊的(スピリチュアル)な人と地球の癒しを求める運動が起こり、全米から世界と広がっていった。この精神世界、スピリチュアルなものは自己啓発や自己解放、心理的技法を用いた自己コントロールや調和の追求に向かう。これは新たなスピリチュアル運動(New Spirituality Movement)と呼ばれここから新宗教運動も起こっている。


  人の心は複雑で、人の人生には常に困難が待ち受ける。自分を支えるものを失ったり、自分が何なのかがわからなくなる体験は誰もが経験し、人類は誕生以来それらの困難に遭遇してきた。そして、孤独感から温かい人と人の繋がりを求めたり、不安定なこの世を理解した指導者を崇拝したり、自分の存在意義が見出せたとき、心に充足感を覚える。まさに、人はパンのみで生きているのではなく、呪術や宗教を生み出し、そこから派生する倫理や道徳のもとで社会生活を送ってきた。既成宗教が力を失い、その共同体の世界より、それに拘束されない自由な世界を生きる人が多くなると、既成の宗教に代わる、新興宗教が力を持ち始めた。その中に宗教的カルトも生まれてきた。

 宗教の難しいのは既成の宗教であるキリスト教も、歴史をさかのぼれば、原始キリスト教は教義上の争いから、中世に入ると正統派と異端派が生まれ、異端狩りや分派闘争を繰り返し、カルト教団も勢力を伸ばした。宗教グループはそれぞれの社会的政治的背景を持ち時の権力の対立者として現れたり、協力したり、自らが権力を握ったりした。

 そしてカソリック、プロテスタント、ギリシャ正教など、現在に至ってもキリスト教内でも宗派間の対立は残り、イスラム教など他宗教との対立はさらに激しい。そして時代とともに宗教は衰退していくことなく、中東やアフリカではイスラム教の政権が誕生し、ラテンアメリカではカリスマ派キリスト教が盛んになり、エホバの証人やモルモン教も世界中に広がっている。先進国でも新興宗教が社会問題を引き起こす事件が増えている。


 そもそも人間は言葉を連ねて、文学をつくり、感情を連ねて、宗教をつくるように進化してきた。宗教の定義も様々で、「ある見えざる秩序が存在しており、それに調和的に自らを適応させるところに最高の善があるとすると信念」と20世紀初めに定義された。そして、20世紀末には宗教は終焉するとも考えられてきた。しかし21世紀になっても、宗教は人間の本性であり、人間社会を構成するものであり、人間が社会を創る限り、形は変化しても宗教は消え去ることはない事がわかった。  近未来SF映画の世界のように、AIなどのコンピューター技術が進歩し、バイオテクノロジーが脳内の操作を可能にしても、それに見合った斬新な宗教が生まれてくる可能性がある。