100年前の1924年フランスの詩人アンドレ ブルトンがシュールレアリズム宣言を出した。目に見える現実は仮想のもので、夢や幻想との境界は明らかでない。その潜在する無意識の世界や意識下の夢の世界を表現するシュールレアリズムが生まれた。
第一次世界大戦は科学の進歩で飛行機や、戦車、毒ガスが使われ多くの死者を出した。既存の文明は崩壊し、既成の価値観を根底から覆した。そして世界を新たにどのように捉えるかが問題となった。今まで信じられていた西欧の近代合理主義ではなく、合理主義や功利主義から離れた何ものか、夢と現実を融合させ、超現実(シュール レアリズム)をつくりだすことによって理性を乗り越える芸術を目指した。
形而上絵画と名付けたキリコの作品は、イタリアの夕暮れの広場の何気ない風景に非現実的な空間を描き出した。不安定で不安な感覚を与える「バラ色の塔のある広場」。左右の建物の、消失点が違ったり、人や像の影が現実とは異なる「通りの神秘と憂鬱」。自然な情景の中の、不自然な影や形、この絵の中の非合理性が脳内の記憶を混乱させ、不安な感情を引き起こす絵画を産みだした。その絵の中から隠された形而上の現実を表現しようとして、のちのエルンストなどに影響を与えた。エルンストは初期のコラージュ作品から「家庭の天使」などのシュールレアリズムの代表的作品を残し、 ダリはアンダルシアの犬の題名の短編映画を制作した。そのシーンは説明不能であるが深くこころを揺さぶる光景を映画にしたと語ったように、奇妙な非合理的な不気味な世界を描いた。ダリはやがてその奇妙な生活と共に、超現実主義の作品「記憶の固執」夢や曲がる空間を曲がった時計で表し、シュールレアリズムを世界中に広め、時代の寵児となる。アン マグリットもまた写実的な手法を使って、現実にはありえない幻想的世界を作り出した。
人間は合理的な存在で、自分の考えていることを把握していて、自分の行動に責任が持てるという世界観があった。1914年始まった第一次世界大戦は、この人間は合理主義的な生き物であるという認識を根底から崩した。パリ大学の医学生であったブルトンが第一次大戦で東部戦線に動員されはじめてフロイト理論を知った。 フロイトは人の心、精神の問題を哲学ではなく心理学で解釈し精神分析学を始めた。人間行動の多くは無意識の領域が支配している。心には相互に働く3つの精神的要素がある1番目は自我(エゴ)、2番目が」超自我(スーパーエゴ)、そして第3ばんめには本能的衝動の源(イド)、エゴは意識的な部分で外の感覚を受け取り、外の世界と触れ合う。またエゴはすぐに意識へとアクセスできる無意識的なな前意識も含まれる。イドは性的本能や攻撃的本能を作り出す。そしスーパーエゴが精神における倫理的価値観の表れで、エゴに影響を与え、エゴをコントロールする。そしてエゴを脅かしたり合理的思考を妨げるイドの生み出す本能的な衝動を抑制する。
そして第一次大戦後、人間の持つ攻撃性を目の当たりにして、人の心の働きは、生まれつき備わった2つの本能の相互作用によって起きると仮定した。一つは生の本能(エロス)であり、もう一つは死の本能(タナトス)で生の本能は種の保存や性、愛、摂食の本能を含み、死の本能は攻撃や絶望である。
シュールレアリズムはブルトンを代表とする芸術と思想の変革運動で、想像力の自由と、夢と狂気の解放を主張した。フロイトの描いた、人の無意識下の夢や衝動を理解して、合理主義、功利主義の価値観から決別したこの運動はフランスから、ロンドン、プラハそして日本へと影響力は広がっていった。日本の絵画もその影響を受けて、古賀春江が「海」や「窓外の化粧」などを創作した。
透明なる鋭い水色。藍。紫。
見透される現実。陸地は海の中にある。
すべる物体。海水。潜水艦。帆前船。
北緯五十度。
海水衣の女。物の凡てを海の魚族に繋ぐもの。
萌える新しい匂いの海藻。
独逸最新式潜水艦の鋼鉄製部の中で、
艦長は鳩のような鳥を愛したかも知れない。
聴音器に突きあたる直線的な音。
モーターは廻る。廻る。
起重機の風の中の顔。
魚等は彼等の進路を図る 彼等は空虚の距離を充填するだろう
双眼鏡を取り給え。地球はぐるっと廻って全景を見透される。
海
映画や写真の繰り返し可能な複製技術によって、芸術作品のオリジナリティーも、複製可能な画像に変わり、一部の階級の独占物であった芸術は大衆のものとなった。さらに、この時代に新しいメディアとしてのラジオが誕生した。当初は「ラジオはたて続けにもろもろの事物や出来事をのべつもなく並べ立てるから、自らの連続性を考える余裕さえない。持続しているのはただラジオの間断のない騒音だけである。」と批判された。新しいメディアとしてラジオが登場した。そして同時に大衆マスとかマスメディアの言葉が1923年アメリカで登場した。 日本では1925年、普通選挙が開始された。日本にも大衆が生まれ、マスメディアが誕生した。このマスメディアを使って、大衆は動員され第二次大戦へと突き進む。そしてシュールレアリズム運動も政治化し、ファシズムに敗北する。
100年前、20世紀の初頭、西欧合理主義の崩壊に対して、過去の伝統を破壊する芸術運動としてのアヴァンギャルド、ダダやシュールレアリズムが起こった。第二次大戦後、文明は理性や技術の力でその困難性を克服し、発展する。そして、民主主義は勝利して世界は平和になる。そして世界は資本主義のもと無限に発展すると思われた。しかしこれらの技術の進歩とカタストロフィーは同じコインの表と裏であり、フロイトの唱えた人間の本性である本能的衝動(イド)の問題が100年の時空を超えて再び立ち現れてきた。


