2025/04/17

戦後物語の終焉

 

                古代都市ウルにある、女王の墓で発見

                された、黄金とラピスラズリで作られた

                牡牛の頭。紀元前2600−2300年


 1962年ヨルダンの砂漠で撮影されたアメリカ映画「アラビアのロレンス」が世界中でヒットした。複雑な性格のロレンスをピーター オトールが主演し、アリ役でオマーシャリフが登場する。この映画で描かれたように、アラブは第一次大戦中ドイツと同盟し参戦したオスマン トルコの支配下にあった。トマス エドワード ロレンスは、英国陸軍の情報将校で、トルコに対するに対するアラブの反乱を支えた。ロレンスはオックスフォード大学で、有名な考古学者であたホーガース博士の元でアラビア語と中東について学んだ。ファイサルと出会い、アラブのベドウィン族とともに、鉄道爆破などのゲリラ活動を行う。そしてトルコの要衝アカバを奪取し、1918年にはパレスチナのトルコ軍を打ち破って、ダマスカス、ベイルート、アレッポを占領した。


 大戦後イギリスはトルコの支配下にあったイラクをアラブのファイサル国王に統治させた。そのイラクにレオナード ウーリーを中心とした発掘調査団がイギリスから訪れ、4000年以上前の古代都市ウルの王家の墓を発見した。当時の模様を発掘調査団の一員であったマックスは、「死者のためのこの大きな竪穴式墳墓に入ったのは、不思議な瞬間でした。地面全体が黄金の絨毯で埋め尽くされていた。それは王が死んだ時に殺された女性を飾る黄金でできたブナの葉であった。」と語っていた。

墓には死んだ王族の遺骨とともに、大勢の従者や兵士が殉死させられ、埋葬されていた。それらは黄金と宝石で飾られ、その女性たちはそれぞれ楽器を抱え、美しい竪琴を手にしたいくつかの遺骨もあった、その竪琴には黄金とラピスラズリで作られた牡牛の頭の像があった。この王家の墓は世界最古の物語「ギルガメッシュ叙事詩」を残した古代シュメール人によって作られた。


 さらに、この発掘調査団によって紀元前2000年前後のウル第3王朝時代に建てられたジックラトが発見された。これは、メソポタミア人の神殿で階段ピラミッっドの形をしていて、この階段を登った所で神官が儀式を行った。


 このメソポタミアの地に紀元前1776年ごろにハムラビ法典が制定された。そして法典はバビロニアの社会秩序が普遍的で、永遠の正義の原理に根ざした、神々によって定められた物である。当時バビロンは世界最大の都市で、人口は100万人を超えていた。そしてメソポタミアの大半を支配していた。この法典により都市の秩序は保たれていた。その内容は、バビロンの法律と裁判の判決を集めたもので、「この地に正義を行き渡らせ、悪きものや邪なるものを廃し、強者が弱者を迫害するのを防ぐ」として300の判例が定型として示された。 眼には眼をの内容で、もし別の上層自由人の骨を折ったなら、そのものの骨も折られるものとする。など細かく規定されていた。


 そして、シユメール人は、紀元前300年から3500年の間に、記号を使って粘土板に大麦やその数を記録した。それから楔形文字に進化し、王は命令を出し、神官は神のお告げを記録し、人々は手紙を書いた。


 ハラリによれば、人類が文明をつくり、世界を征服したのは言葉を使って、大勢の人を結びつける才能があるからで、真実か否かではなく言葉による物語によって共同体がつくられ、神殿を作ったり、法制度を作り維持し、生活の規則、祝祭日を定めたりする。そのことによって共同体が小さな部族社会から、大きな豪族の支配する社会に、やがてそれらは統一されて帝国となる。


 これは、法律、貨幣、神々、国民といった人間社会のシステムに共通の共同の主観現象で、虚構や空想や集団の妄想によって大勢の人が協力し、これらが使われ歴史を動かす大きな要因となる。ハムラビ法典が作られた同じ古代バビロニアで紀元前3000年紀半ばに銀のシェケルという銀が貨幣として使われた。その後世界中で金は貨幣として使われ、物々交換に代わる流通の制度の中心になった。


 その後世界は貨幣を使った貿易を通じて、相互に繋がり、経済活動を行い、さまざまな経済学の理論が生まれた。アダムスミスの古典派経済、デビットリカードあるいは、その後のマルクス主義経済学、ケインズ経済学、ミルトン フリードマンの新自由主義などの経済学理論が次々と登場した。これらもやはりその時代の産物であり、共同主観によって成立している。



 神々の世界、宗教にも共同主観による人々の結びつきが見られ、小さなカルト集団は、物語を作り、それが次第に広がる。人間の脳の発達による言葉の発明、物語の想像は人々を結びつけ、それを信じ、話し言葉から、書くことによって記録され伝播しさらに広く遠く影響を及ぼし、信者を獲得し、やがてあるものは世界宗教になる。

実際のイエスは典型的なユダヤ教の伝道者で、説教をしたり病人を癒したりして少数の信奉者を獲得した。地方在住のほぼ無名の宗教指導者は死後に、天地を創造した宇宙の神が人間の姿をした物として偶像化され、世界中で信者を獲得し、世界中で25億人の人々にキリスト教は信じられている。同じようにイスラム教やヒンズー教、仏教も生まれ、信じられ、信者を獲得した。


 歴史上世界中でエジプトでもローマでも、中国、南アメリカなどでも国は生まれ、やがて神の国や帝国となり、栄枯盛衰を繰り返していた。20世紀には帝国間戦争が起こった。そして国家社会主義国や共産主義国家が誕生し消滅した。そして、先日まで、グローバル主義、自由な民主主義が世界史の勝者のように見えていた。今その秩序は崩壊しつつある。