2023/11/20

帰らざる日々 日本の今

 


「恍惚の人」は1972年に出版された、有吉佐和子の長編小説。同居している義父の認知症が進行し、その介護に振り回される家族の生活や当時の社会が描き出され、今でも古風にならない、切実な問題を扱っている、当時は病気の実態もわからず、介護も施設がなく、家族が全てを抱え込んでいた。そして息子は父親の介護には関わらず、奥さん一人が献身的に介護する姿が描かれている。

 1960年代から1970年代の日本は若者の人口は非常に多く、若い人々のエネルギーが日本中にあふれ、東京オリンピックで盛り上がり、政府に抗議する運動も全国で起こり、大阪万博にも人々は殺到した。やがて多くの人口が日本の生産活動を支え、ものを作り、消費した。経済は活動力を高め、人々は豊かになり、GDPがアメリカに迫りつつあった。

 その後もさらに経済は活況を呈し、バブル時代を迎える。バブル崩壊以後失われた30年と呼ばれる長期低迷経済に日本は陥る。2008年に日本の人口は減り始め、地方では商店、飲食店なども減り始め、学校も閉鎖され、街はシャター街ができ、空き家や空き地が目立つようになった。その後も生産人口は減少し、所得税を支払う人口はますます減少し、税を払わない人が増え、養うべき人口は増加し、高齢者だけで3000万人となる少子高齢化の社会に突入した。

 

 この高齢化社会のもとで、社会福祉にかかる費用は増大してきた。世界的に少子高齢化は進んでいる、しかし日本は突出して老人人口が増えた。2005年に退職者一人は3.1人が支えていたものが、2020年には2.1人で一人を支えることとなった。日本の約30%に比べ、今年アメリカの65才以上の人口は約17%、カナダ、イギリスは19%、ヨーロッパは22%から24%であった。高齢化で福祉費用のうち医療費とともに介護費用は急激に増加してきた。2010年に比較して2倍以上に膨れ上がっている。

 認知症の社会の認識も進み、支える介護もできているものの、最近でも、介護を一人で抱えこみ、認知症の奥さんの世話に疲れ果てて殺害に至る事件が起きている。日本の認知症の人は高齢化とともに増加し、2025年には675万人になる予想で、65才以上の人の5.4人に一人がそのための介護が必要となる。そのほかの病気も抱えることになる65才以上の人口はその頃には30%を超え、日本の社会はそれに対する医療や介護の人材医療、介護の施設、それを裏づける予算が必要となる


  少子高齢化は労働人口が減り、生産し働く人口が不足する。その減った人口で増える老齢者人口を支えることになる。さらに労働人口のうち今後1000万人の介護医療の人材が必要となりその数は製造業の従事者を上回ることになる。働き手となる労働人口が減り、どの分野も人手不足になると、経済の成長は望めない。さらに稼ぎ手である人口は減って、支えられる人口が増えればその人たちの生活を少ない人々が支えなければならないため、社会負担はどんどん増えていく。人口減少が続けば、いずれ消費や投資が減退し、最終的に失業と貧困が増加し、出生率の低下と高齢化が高まることによって、労働意欲、労働生産性が低下し、広範な社会心理的停滞が引き起こされる心配がある 


 1970年ノーベル経済学賞受賞のホールサミュエルソンは社会保険の本質はそれが保険経済的に不健全なところにある。誰であれ退職年令に達すれば給付金を受け取る権利が与えられる。それは自分が払った拠出金をはるかに上回る。なぜこれが可能か、それは人口が増加する国では若者の数がつねに老人の数を上回るからだ。人口が増え続け、所得が増え続けることが条件となる。これは年金だけでなく、医療費や介護などの社会保障費にもあてはまる。



 戦前からヨーロッパの各国では少子化の対策がたてられていた。日本も1970年の後半から80年代にかけて出生率の低下が見られるも、一過性の現象で、国が産むことを奨励することには国民は批判的であった。1989年出生率が1.59となり、少子化の問題に気がつき、それ以降、少子化対策に政府も乗り出した。しかし当時、それほど社会全体のひっ迫感はなく、対策は立てられたもののほとんど成果はなかった。その結果21世紀に入って、少子化とともに高齢化が進み、社会保障分野の支出がふくらみ、消費税では不十分で国債を20兆円から30兆円発行して税金の足りない分を補っていった。

 2001年小泉政権の時、国債発行額を30兆円以下にする公約で2006年に一度だけ国債発行の増加を停止した。同時に社会保障費の増大に枠をはめたためこの政策は批判された。 医療介護費用はその後も増加を続け、この社会保障費の増大に対応するための税収は不十分で、これを補うために、国債を多く発行し、予算も増加させた。2019年新型コロナの世界的流行でこの対応に政府は国債を2020年に112兆円に増額し、21、22年はそれぞれ60兆円台となった。そして22年末で合計1000兆円を超えている。政府が年金をカットしたり、増税をすれば反発が大きくなかなかできない。そのため赤字を補うために、国債を発行し続けて対応してきた。


 ドイツ銀行の高官が今年、投資家へのメモで「日本円のファンダメンタルズは非常に弱く、世界で最もパーフォーマンスは悪い。トルコリラやアルゼンチンペソと同じ部類に入る。」と述べた。


 トルコは2023年5月の大統領選挙前、エルドアン候補は金利の高いことは悪いとしてインフレ率が30%近くと高い中8.5%の金利にした。この中央銀行のマイナス金利政策は、これによってリラが安くなり、観光客は増え、輸出は活発になり、投資も増えると理論で、結果的に、リラの信頼性は低下し、通貨の下落にみまわれた。野党は金融政策の正常化、金利を上げてインフレを抑えるように主張するも選挙に敗れ、エルドアン大統領となり高インフレ、通貨安の悪循環が起きた。その後、この悪循環を止めるため、金融緩和策は中止して利上げを開始した。


 アルゼンチンは、やはり100%を越すインフレで、金利は133%。そのためペソの価値は低下し、ドル紙幣を抱えて高級車や高級マンションを買う人が急増した。今年10月の大統領選挙で、マサ経済大臣が減税や社会保障費の増額を訴えてトップになり、中央銀行を廃止し、アルゼンチン通貨をドルに変更し歳出を削減する過激で急進的政策のミレイ氏が2位となり、11月の決選投票に持ち込まれた。マサ経済大臣の減税や負担軽減政策は間違っている。状況は危機的で、生ぬるいその場しのぎの対策は許されない、年率140%を超えるインフレの根本的解決には今の中央銀行を廃止して、ペソを廃止して、ドルをアルゼンチンの通貨にして、バラマキ政策をやめると唱え、若者を中心とした支持が集まり、ミレイ氏の勝利に終わった。


 経済が混乱し、政治が対立すると選挙に有利な減税や社会保障の増額や金利を低くする政策は支持される。しかし、それが続くと国家の財政が破綻してしまう。 お上だのみの日本の風土であっても、政策を決める側が、日本国民に対して今の財政の状態や今後の見通しについて本当の事をわかりやすく説明する必要はあります。