2001年宇宙の旅は、干ばつに苦しむ類人猿の群れが、水や食料をめぐって他の群れに押され、絶滅寸前の状態にあった。そこにある日突然、正体不明のモノリスが現れ、類人猿はモノリスに触れ骨を武器として使うことを発見する。彼らは攻撃性を身につけ、やがて人類へと進化する。その獲物を捉え敵を攻撃する武器の骨が空中高く舞い上がり、2001年のコンピュータHAL9000に制御された、モノリス探査のために月に向かう宇宙船にシーンは変わる。
人間は真実を見ているのではなく、納得できる物語を見ている。人間は物語を共有することで、困難を乗りこえ、生存してきた。 集団をまとめるために宗教が生まれ、カルトも生まれる。国家を作るためにイデオロギーが生まれ、セクトも生まれる。技術を開発し敵を倒して勝者が生存する。人々は宗教や言語、歴史価値観や制度などで自らを定義づける。そして我々の部族、宗教的共同社会、国家、我々の文明といった集団のアイデンティティーを確立する。
人類は歴史上様々な文明を創ってきた。古代シュメールのメソポタミアやエジプト文明、古代ギリシャやローマビザンチンそして中央アメリカのアンデス文明。これらは滅亡した。現在残っているのは西欧文明とロシア正教文明、そしてイスラム文明、中華文明と日本文明とインドのヒンズー文明さらにラテンアメリカ文明がある。
1500年以前には世界の文明は、切り離され独立して繁栄していた。大型の帆船はなく、ユーラシア大陸は、草原をかける馬や砂漠を旅するラクダによって情報や技術はゆっくりと伝播していった。
1500年から1750年にかけて西欧が組織的な軍隊をつくり、規律、訓練に優れ、大型の帆船を作り、遠洋航海が可能となった。そして輸送の技術の急速な発達とともに武器としての銃と大砲が作られた。それを使ってユーラシア大陸の西の端のポルトガルとスペインが海洋帝国を築き、大航海時代の覇者となった。 その後、ポルトガル、スペイン、オランダに代わりイギリスが遠洋航海の力と工業の力を使って覇者の座を占めることになった。
そして技術を手にして武器を作り他の文明を支配して帝国を創り上げた西欧諸国の間でも同じ文明圏の中での平和は例外で、戦いは日常的に行われていた。
1648年にウエストファリア条約が結ばれるまでの150年間西欧文明の中では宗教戦争が起こり、30年戦争と呼ばれるカトリック陣営とプロテスタント陣営の戦争でヨーロッパは破壊尽くされ、その後も王位継承戦争が続いていた。ウェストファリア条約で宗教に軍事は関与しない取り決めがなされた。
その後は国王や立憲君主が支配する国民国家ができ、軍を強化し、経済力をつけ、領土の拡大を目指し、互いに覇権を争っていた。その状態が第一次大戦まで続いた。2度の世界大戦の後、西欧文明から生まれたイデオロギー対立は共産主義の敗北で終わり、西欧型資本主義、新自由主義とアメリカ文化が世界に広がり普遍化した。
2020年代に入り、ロシアとウクライナの戦争とイスラエル、アメリカとイランの戦争が起こっている。ロシアのウクライナ侵攻はロシア正教の文明と西欧の対立の側面がある。大陸国家ロシアは周囲のフランスやドイツといった西欧を敵とみなしている。 プーチン大統領は聖なるルーシーとしてロシアとベラルーシとウクライナを宗教的文化的に一体と見なし、ギリシャ正教をロシアの伝統の象徴であり精神的支柱と位置付けている。今回のウクライナ侵攻は西欧文明のNATO諸国から、ロシアを防衛する戦いと位置付けている。
MA GA派と、キリスト教福音派とテクノリバタリアンに支えられて当選したトランプ大統領は、キリスト教ナショナリズムを前面に押し出して選挙に勝利した。一期目にアメリカ大使館をエルサレムに移転した。福音派にとってイスラエル建国とその後の戦争の背景には神の働きがあり、1967年の第3次中東戦争以降、東エルサレムをイスラエルが占拠するのも神の意志の表れである。文明を守る宗教と、その手段としての軍事力の行使は密接不可分で何ら矛盾するものではないと考えている。そして今年の2月28日イスラエル、アメリカはイランを攻撃した。 かつてサムエル ハンチントンの唱えた文明の衝突、西欧とロシア正教文明、アメリカ イスラエル文明対イスラム文明の戦いが始まったのようにも見える。
人は最新の武器を手にした時、それを使いたくなる誘惑に駆られる。そして国家の対立では、物語を作り出してでも紛争の解決に高度な最先端の武器を使う。ベネズエラの大統領拘束で AIは各部隊の情報を統合し、作戦全体を可視化し、支援情報、判断、計画を高速化する司令部の頭脳の役割を担った。そしてイランの攻撃にはアンソロビック社の生成AIを組み込んだパランティア社のメイブン スマートシステムを使って、同時に1000以上の標的を攻撃した。
今年の3月、AIに核のボタンを握らせ、互いに敵の行動を読みながら領土を争うゲームを繰り返した戦争シミュレーションの研究結果が発表された。AIは表向き相手国に友好的態度を示しつつ、裏では攻撃準備を進めジギルとハイド的な行動や計算高い鷹、あるいはマッドマンと名付けられた作戦を立てた。多くの確率で核兵器の使われる戦争に至った。
2001年宇宙への旅ではHAL9000が反乱を起こす。2001年宇宙の旅は人類の攻撃性、AI技術の進歩した世界を預言した作品になっている。