2026/11/01

心もようとその起源

 


 人は生まれて成長しやがて老いていく。それは筋肉や骨格が発達しそして衰えていくように、脳の中でも成長や衰退は起こっている。

 ジャン ピアジェは1923年に「子どもの言語と思考」を発表した。子どもを観察することによって、子供は大人と同じように考えているのではないことに気づいた。子供自身の考えはどのような特徴があるのか、それはどのような世界観で、どのように発達するのかを研究した。 


 ピアジェは子どもの精神の発達は4段階で起こるとした。まず赤ちゃんの時代、生まれてから2歳頃までの時期。赤ちゃんは見る、触る、口に入れるといった感覚と運動を通じて世界を知る。目の前からおもちゃが隠れても、それが存在し続けていることを次第に理解するようになる。2歳から7歳頃になると、言葉や想像力が発達する。しかし、細長いコップに水を移すと量が増えたように感じると答える。7歳から11歳頃になると物事を論理的に考え、見た目が変わっても水の量は変わらないと理解できるようになる。11歳を超えるころになると目の前にない事柄について仮説を立て、抽象的に考えられるようになる。


 ピアジェは、成長初期の段階から成長とともに、知識の量が増えるだけでなく、子どもが自らの経験を通じて世界についてのモデルを作り、それを成長とともに感覚や運動による経験が記憶され、修正し、新たに知識を組み立てることに気づいた。現在の脳科学から見ると、脳は成熟するにつれて、前頭葉前野の発達、海馬と記憶系の発達、前頭頭頂葉のネットワークの発達によって、経験から予測し、抽象的に考える能力が育っていく過程であることがわかっている。


 好きか嫌いかの由来は、最初に快い刺激を求め、不快な刺激を避ける仕組みから始まる。成長するにつれて自分は何を好み、誰を好きになり、何を嫌う人間なのかという、より複雑な感情へと変化していく。好きか嫌いかは人が世界を理解して行動する基本のシステムである。なぜそうなるかの脳の仕組は、単純化すると、扁桃体が好ましいか危険かを感知し、報酬系の腹側線条体、側座核のドーパミンなどが動機づけや期待を担い、海馬が記憶する。そしてなんとなく好き、なんとなく嫌いな感情が生まれる。


 嫌な人のことが頭から消えない、嫌なことが忘れられないといったことがなぜ起こるのか。生きることにとって重要と感じた一過性の経験や記憶、不快な気分はその時の場所あるいは状況とともに記憶され、思い出すたびに、その出来事をもう一度経験しているかのように感じ強化される。嫌な経験を覚えておくことは、同じ失敗や危険を避け生き残るために役立っていた。それが現代社会で、その必要のない環境で、かつての機能が活動して眠れない夜を過ごすことになる。


 群れで生活することで生き残った人類にとって、味方と敵を判断して自分の属する集団を作り、それを守ることが重要であった。そのために必要な性格が備わった。人の目が気になり、人からの評価を気にする。そして集団としての仲間に入れてもらうことが重要になり、それが満たされないとき疎外感を感じる。そして周りから承認されたいと言う強い願望が起こる。さらに相手の気持ちを読み、空気を読み、同調しやすい傾向が生まれた。また人は対面して、会話や表情仕草などで感情のやりとりをし、目の細かな動きから相手の気持ちを推察できるようになった。これは集団の共同作業の時、相手の心の内を表情から読む必要があるから生まれた。今でも、演劇や映画で相手の気持ちを読むことで物語はつくられている。それがなければシェイクスピアも寅さんも理解することがことができない。



 先の見えない環境に対して、新しい行動を起こすことに魅力を感じ、新しいことに挑戦し、新しい技術を生み出す好奇心が人には備わっている。アフリカを出て、ユーラシア大陸に向かい、世界に新しい土地に生活の場を求め、船を造り、海に乗り出し、ロケットを造り宇宙に向かった。この止むことのない好奇心、知的好奇心も生まれ付き備わっている。冒険心や好奇心が湧き、満たされる、その時ときには脳の報酬系が働いている。


 人はまた、難しい文章を読んだり、慣れない外国語で話を続けると、非常に疲れる。それは 脳は体の中で最もエネルギーを消費し、脳を使うとすぐに疲れてしまうためで、いかに効率よくエネルギーを抑えて情報を処理することができるかが重要になる。そのため、外から入ってくる断片的情報を、一人一人が簡単で理解しやすい物語にしてしまう仕組みがある。断片的な情報から、人の病気や怪我を悪魔のしわざにしたり、色々な社会の出来事を隠れた悪い力や、怪しい陰謀のせいにする。真実でなくても起こっている事柄を因果関係で結びつけて納得する。



 人の心もようの変化は、人間という生き物に生まれつき組み込まれている構造で、これらの特性を理解すれば、思いわずらうことも少なくなり、気分をコントロールできるようになる。

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