人間は瞬時の直感的判断と、熟考による理論的な判断と二つの経路使って世界を理解する。
ダニエル カーネマン
普段人は頭の中で浮かぶ考えや印象、感情はほとんどどこから出てきたのかわからないままに、意識の中に浮かび上がってくる。日常生活のほとんどはこの自動的な速い思考でおこなている。人間の意識は脳の働きを完全にわかっているわけではない。この印象による判断は、無意識的であり時々思い込みによってバイアスが生まれる。それは、長い生存のために人類の進化の過程で作り出されたものである。人は、進化の過程で、生き残るために、まず、近ずいてくるのが敵か味方かを一瞬にして判断する必要があり、そして人であれば怒りの顔か、友好的な顔か直感的に思考判断する必要にせまられる。味方であればこれに近づき、敵であればこれから逃れようとする。そしてまた異変に気がつく前に行動していることがある。人の体に危険が迫ると、不快な感情や不安感が自覚しない間に起き、危険を回避する反応が起きる。そして思考も、速い思考と呼ばれるシステムを使って無意識に物事を判断して行動する。
この直感的思考の特徴は、 まず最初、人間は物事を見て二つの事柄があるときその因果関係を、素早く結び付けて、印象で判断する。限られた情報を、組み合わわせ辻褄の合うパターンとして組み立てるためにそれが不適切で、時には間違って使うことがある。当然その時記憶にない情報は判断の材料にならないし存在しないことになる。しかし、情報が本当かどうかとか、知らない事実があるかは直感的判断では、あまり気にしない。
そしてこの速い思考の特徴は、くり返されて経験している、慣れ親しんだものを好むこと。 最近経験したことや、鮮明に残った記憶が無意識にその直感的判断に影響を与えること。新しい情報を処理するのに、最初の印象に影響されやすいことなどがある。そして、何より気分が判断に影響する。この感情や情動が思考と強く結びつくのは人の脳の中で生まれた、進化の産物である。
レントゲン診断医が、同じX線写真を別の機会に見せられた時、20%で正常と異常の判断が前回と異なったという古くからの報告がある。そして、新生児の生死の予想は以前はそれぞれの医者や産婦人科医の判断で、その赤ちゃんが危険な状態か、どうかを決めていた。1953年、麻酔医のアプガーは簡単で誰もが使える評価の方法を考えた。心臓の拍動数、呼吸の様子、刺激に対する反応、筋肉の緊張の度合い、皮膚の色を状態によって3段階に分け、生後の1分ごと5分後の二回評価する方法で、今でも古典的なアプガル スコアが優れた経験者よりも確実なアルゴリズムがあることがわかり、使われている。
さらにカーネマンはイスラエル国防軍心理学部門に勤務中のイスラエルの軍人の適性を判断し、どの部隊に所属させるかを面接を行い、話を聞き、そして相手のまなざしや表情話の内容から軍の面接官が決めていた。しかしこの印象判断では、良い結果が得られなかったのでカーネマンは改革をおこなった。同じ質問を面接官がするように標準化した。そしてリーダーシップ、チームワーク、ストレス耐性の能力や特性の評価を数値化し、さらに複数の面接官が独立した評価をした。
人は即時に反応が必要な時、生まれつき備わっている感情と印象判断の経路を使っている。おそらく多くの動物たちにもこのシステムがあり、地球上で生存してきた。 その後、第2の回路を使って、情報は前頭葉の前皮質に到達し、知覚と経験や記憶とてらしあわせて整頓する。この能力が人類では非常に発達している。この前頭前野は他の脳の部位より一億年ほど後に発達し、脳の大きなスペースを占め、計算、知的な思考、事実を確かめるといった他の生物にはない知的活動の司令塔である。ここで生まれる遅い思考は、努力、セルフコントロールを必要とする。、長く続けるためにかなりの努力が必要で、消耗して、疲れてくると、頭を使わない惰性でできる、いつもの方法をとるように頭は働く。
人々が豊かになった世界で感性や直感的判断に訴える方法、コストや品質以上のより価値のある品物、ブランド品が世界的に流行し始めた。ブランド品は人々の感情や直感に働きかける。企業は商品の質よりまずブランドを生み出さなければならない。一番大切なのは感情に訴えるデザインそしてコンセプトである。 その始まりはフランスのエルメスやルイヴィトンといった高級ブランドで、20世紀の後半になると新しい企業がアメリカに登場しブランド戦略で世界を席巻した。ナイキやアップルやスターバックスで、まずそれらの会社は全く新しいアイデアやブランドを確立して、消費者の心をつかむ、その戦略は、人間の本性である、印象と帰属意識と憧れで、人はその品物を買い、ライフスタイルもまたブランド化された。さらに最近では政治もまた、ブランド商品と同じマーケット手法で人々の気分に訴えかけるようになってきた。新聞や文字による情報伝達が主流の時代には、遅い思考を使う必要があった。SNSの時代になると、遅い思考より速い思考と印象が、より重視され世界を動かすようになった。


