1859年チャールズ ダーウィンは「種の起源」を刊行した。
「どの生物種でも、生き残れる以上の数の子供が産まれてくる。しかもその結果として、生存闘争が繰り返し起こる。こうした状況下では、自分自身の生存にとって少しでも利益となるような変異を備えた個体は、たとえそれがいかに小さな変異であっても、複雑で変化しやすい環境下において生き残る可能性が高くなる。」
チャールズ ダーウイン
45億年前に、小惑星が集まって地球が誕生し、やがて37億年前に微生物が現れ、細胞つくり、単細胞から多細胞になり、細胞が分裂して、複製され子孫を残す。やがて生物は多種多様な形態と機能を備え、地球上のあらゆる地域に広がっていった。最初は海で進化した生物は陸上にも広がり菌類、ウイルス、細菌、植物、動物など様々な生物が重層して生物界を生み出している。この地球上の生態系は、何百万年もかけて築き上げられてきた。
種は、時とともに進化し、多くの生物を生み出している。しかし、現在地球上に存在する生命の進化の原動力は一体なんなのかそれは分からなかった。その答えをダーウインが出した。種は変異し、自然に淘汰され、環境に適応したものが生き残る。
このダーウインの進化論に対して、宗教界は一斉にに反発した、キリスト教によれば、神が世界を創造したのであり、目的のない世界はあり得ない。当時は遺伝のメカニズムは不明で、進化の証拠は不十分であった。この適者生存を社会的に適応した説が生まれ、優生学、社会ダーウィニズムとして流行し、それに対する激しい反発が起こった。その後、メンデルの遺伝法則が発見され、ワトソンとクリックのDNAの発見などにより、今ではダーウインの自然淘汰理論は進化論の基本になっている。
「たとえ破綻した論理であっても、それによって説明がつくなら、世界はなじみのある場所に感じられる。だが反面、世界から幻想と光が突如として消え失せれば、人は自らが異物や部外者であるかのような思いを抱く。この疎外感を癒す薬はない。なぜなら、彼は失われた故郷の記憶や、約束の地に託した希望さえ失われるからだ。」
アルベール カミユ
1975年エドワード O.ウィルソンは「社会生物学」の最後の章でカミユのこの文章で締め括った。 社会生物学が示したのは、攻撃的な衝動から人道的大義まで、人間の人間に対する行動の大部分は、手の構造や脳のサイズと同じように、進化の産物なのかもしれないというものだった。ウィルソンはアリの社会の形成と同じように動物や人間社会も遺伝とその進化で説明できるのではないかと考えた。
ウィルソンは「人は視覚と聴覚でコミュニケーションをとり、これによって意味を持ち言葉が誕生した。一方、アリは分泌される化学物質を嗅覚または味覚によって感じ取り、社会を作る、アリは遺伝子レベルで固定されているが人間は社会構造を進化させ、発展させた。」
ウィルソンは1950年代の後半にアリのフェロモンの研究に取り組み多くの論文を書いた。その後、アリの多くのフェロモンが明らかになった。女王フェロモン、養育フェロモン、同巣個体識別フェロモン、ワーカー誘引フェロモンなどで、フェロモンはアリの言語であり、指揮系統の科学的語彙だった。
ウィルソンが指摘したアリと人間社会の類似点は、アリも人も高度に分業し、協力する。それは共同体の形成による、そして一部のアリは自らは繁殖しないにも関わらず利他的行為によって、女王ありや巣を守る。人間社会でもまた自己犠牲や子育てなどの利他的な活動をして、社会を支える。
この人とアリの類似性は社会の発展や文化は知能をもつ人間の学習のみでは説明のつかない遺伝的要因を示唆しているのではないかと考えた。
さらに、遺伝子と心や感情について、視床下部と辺縁系を作ったのは何か、これは自然淘汰を通じた進化の産物だ。人のように高度な社会性を持つ種において、これが働き、個体の生存、繁殖、利他行為の行動を起こさせる。愛、憎しみ、攻撃、恐怖などさまざまな情動は個体の幸福や生存のためではなく、個体の行動を司る遺伝子を継承するためである。
1978年「人間の本性について」を発表し、その考えを道徳や宗教まで広げていった。人は生まれつき、無意識の生物学的ネットワークを備え、進化を通じて形成されたこのシステムが、私たちの基本的価値の範囲を定める。親子の愛や利他的行動、集団への忠誠心、宗教的感情などは進化の過程で選択されやすかった性質、適応であると考えた。
これにたいして、論争が起き、政治的な社会生物学論争になった。
社会生物学を「生物学的決定論」であるとみなして、かつての優生学と同じような理論であると非難した。ウィルソンは「私たちの原始的な古い遺伝子は、文化の力で、変化し、人間の本性である、利他行動と社会正義へと適応できるはずだ。」「人間の行動は90%が文化に由来し、遺伝子が司るのは10%に過ぎないだろう」と述べている。
その後ドーキンスが「生物、生存機械論」で、生物の利他的行動も利己的な遺伝子の生き残り戦略であると主張した。またシャレド ダイアモンドは「人間はどこまでチンパンジーか」、で人間と98%の遺伝子を共有するチンパンジーの生活を動物進化の視点で描き出した。科学の進歩により脳のしくみの理解が十分に進み、人間の本性は自然科学の一環として研究され、人文学や社会学のイデオロギーや宗教や哲学ではなく、遺伝子と心、文化の問題は生物学によって、解明されるであろうと主張したウィルソンの予言は現実のものとなりつつある。
2015年「50年の双子研究に基づく、ヒトの形質の遺伝性に関するメタ分析」がなされた。過去の2748本の文献で、1455万8903組の双子を対象に調査され、7804の形質の分析が行われた。人の行動の遺伝率の平均49%、約半分は遺伝的であると発表された。